企画展「秀吉を祀る社の歴史~豊国神社 社宝展~」

長浜市南呉服町に鎮座する豊国(ほうこく)神社は、豊臣秀吉・恵比須神・加藤清正・木村重成(しげなり)を祭神とする。その草創は慶長5年(1600)8月18日に、長浜八幡宮の御旅所に勧請された豊国大明神(秀吉の神号)社であった。江戸時代は徳川氏の世であったので、秀吉を表立って祀ることはできなかったが、神像は町年寄によって守護された。

寛政5年(1793)9月に至り、御旅所に蛭子神社として八幡宮から移転した社殿に神像を祀り、事実上、豊国大明神社を再興した。明治維新に至り、社号を豊(みのり)神社に変更、明治31年(1898)には社地を現在地の西側に移し、さらに大正元年(1912)に豊公園が開園したので、境内を道路が貫通することになり、現在の社地に移った。大正9年(1920)に社号を豊国神社に改称、翌々年には村社から県社に昇格した。

明治維新以降、長浜町における秀吉信仰の中心となった神社であり、明治31年10月の神社大祭には、12基の曳山を御旅所に並べ、町民全体で祝賀行事を行なったことが知られており、同じく秀吉信仰に起源を持つ曳山とも関係が深かった。

この度、令和5年に開催された「長浜開町450年祭」に際して行った社宝調査により、その存在が明らかになった文化財を、初めて一般公開する。そのほとんどが初公開資料である展示資料からは、明治・大正・昭和にわたる秀吉信仰の高まりと、その証(あかし)として神社奉斎に尽力する町民の姿を読み取ることができる。

企画展情報

開催期間:
令和6年7月30日(火)~9月29日(日)
会場:
長浜市曳山博物館 1階展示室
開館時間:
9時~17時(入館は16時30分まで)
休館日:
毎週月曜日 但し、8月12日・9月16日・23日の月曜日(祝日)は開館。翌日の8月13日・9月17日・9月24日は休館。
入場料:
大人 600円、小中学生 300円(20人以上の団体は、2割引き)
長浜市・米原市の小中学生は無料(学校名申告)。
未就学児童、障がい者本人とその介助者1名(手帳提示)は無料。

展示説明会

日時:
令和6年8月10日(土) 午後1時30分~午後2時30分
場所:
長浜市曳山博物館1階展示室
説明者:
館長 太田浩司
参加費用:
参加には入館料が必要です。

主な展示資料

 

 

1 金燈籠(かなどうろう) 弘化3年(1846)

秀吉250回忌に当たり、長浜町人が秀吉の神前に奉納した金燈籠である。「火袋」の透かしに、「御神忌二百五十回 奉納長浜中」とある。同時に石燈籠も寄進しており、これも境内に現存する。江戸時代において、豊国神社の前身建物が実際に存在したことを示すもので、長浜の秀吉信仰の歴史を示す重要な作品である。

 

 

2 扁額「豊国神社」 蜂須賀茂詔書 大正3年(1914)奉納

阿波国徳島藩の蜂須賀家第14代(最後)の藩主茂韶(もちあき)の書。文部大臣を務めるなど政治家としても活躍したが、明治時代に設立された豊国会の副会長も務めている。藩祖蜂須賀小六を引き立てた秀吉への信仰心は人一倍であったと見られる。長浜南片町の森嶋太三郎によって奉納され、最近まで正面鳥居に掛けられていた。

 

 

 

3 龍文紺糸素懸威胴丸(りょうもん・こんいと・おどし・どうまる)  

江戸時代

長浜豊国神社に伝来した唯一の甲冑である。筋兜(すじかぶと)・面頬(めんぽう)・籠手(こて)・臑当(すねあて)、それに鎧櫃(よろいびつ)が付属する。威(おどし)糸は一部新調されているか。鎧の用途は不明であるが、大正13年(1924)の長浜開町三百年祭においても、鎧武者が居並ぶ行列が行われており、本作もこれに使用されたものかもしれない。

 

 

 

4 豊臣秀吉像 高峰秀政画 昭和時代(前期)

有名な馬藺後立(ばりんうしろだて)兜に、白い陣羽織を着た若々しい秀吉像である。左上には豊臣家が朝廷から拝領した五七桐が描かれる。作者の高峰秀政は昭和前期に活躍した京都の絵師で、長浜市石田町に残る「石田三成公御一代絵巻」を描いたことでも知られる。現在、豊国神社に残る秀吉画像は、本作品のみである。

 

 

 

9 豊国神社能舞台鏡板 明治30年(1897)

鏡板とは能舞台の背景で、奈良春日大社「影向(ようごう)の松」を写したとされる老松が描かれている。影向の松とは神仏が現れるときの依代(よりしろ)である。豊国神社の能舞台は昭和40年代後半になくなっており、実測平面図から社の南西に舞台があったことが確認できる。加えて、本作の両端には壁面に設置するための金具も残っていることから、かつては舞台に据え付けられていたものであることが分かる。

 

 

 

10 伊吹山図  杉本哲郎画 昭和12年(1937)

杉本哲郎(1899~1985)は長浜ゆかりの絵師であり、本作は杉本がインドに渡るための祈願をしに、豊国神社に参拝した際に奉納されたものである。手前から霞がかった木々や山などが並び、その中心には、積雪した伊吹山が大きく描かれる。左端には、正面を向く鳥居が小さく描かれることから、神の山として『古事記』にも登場する、伊吹山への信仰を垣間見ることができる。